漫画『キングダム』において、圧倒的な存在感とカリスマ性で読者を魅了し続けている大将軍・王騎(おうき)。
「ココココ」という独特の笑い声や、主人公・信に多大な影響を与えた最期のシーンは、作中屈指の名場面として今なお語り継がれています。
そんな王騎ですが、歴史ファンや読者の間でよく話題になるのが、
「キングダムの王騎は実在した人物なの?」
「王騎のモデルは誰?」
「王齕や王齮とはどんな関係なの?」
このような疑問を持つ人は多いでしょう。
結論から言うと、王騎という人物は史実には存在しません。
しかし、『史記』に登場する秦の将軍「王齮(おうき)」が最も有力なモデルとされ、さらに王齕(おうこつ)と同一人物だった可能性も指摘されています。
つまり、漫画の王騎は一人の武将をそのまま再現したキャラクターではなく、史実をもとに原泰久先生が大胆なアレンジを加えて生み出した存在と言えるでしょう。
この記事では、歴史書『史記』の記述をベースに、王騎のモデルとなった「王齕」「王齮」の実像と、作者・原泰久先生がなぜ別キャラクターとして描いたのかをわかりやすく解説します!
王騎のモデルとされる 「王齕(おうこつ)」とは?
まずは、多くの読者が名前だけは聞いたことがある「王齕」という武将について見ていきましょう。
王齕は、秦の昭王(しょうおう/嬴政の曽祖父)の時代に大活躍した「名将」です。
白起や司馬錯と並び、秦が天下統一へ向かう土台を築いた武将の一人として知られています。
漫画では過去の六大将軍として名前のみ登場しますが、史実では中国戦国時代末期の秦の将軍で、昭襄王・荘襄王に仕え、数々の大戦で秦軍を率いていました。
長平の戦いで白起を支えた名将
王齕の最も有名な功績は、紀元前260年の「長平の戦い」で副将として趙を大破したことです。
当初、王齕は総大将として趙の軍勢を圧倒していました。その後、秦の最高権力者である范雎(はんしょ)の策によって、総大将の座を最強の武将「白起(はくき)」に譲りますが、王齕は副将として、秦を歴史的大勝利へと導きました。
魏の首都を包囲し、数々の国を震撼させた強者
長平以外にも王齕は、
- 邯鄲の包囲(紀元前258年〜257年)趙の首都・邯鄲(かんたん)を攻囲
- 紀元前257年に魏との戦い
- 太原郡の設置(紀元前247年)に韓への遠征し秦の領土拡大に貢献
など、多くの戦争で功績を残しています。
『史記』を読むと、王齕は長年にわたり第一線で戦い続けたベテラン将軍だったことが分かります。
そのため、中国史でも「秦を支えた名将」の一人として評価されています。
『史記』秦本紀における紀元前247年の記録を最後に姿を消しますが、歴史家の間では「『史記』にて紀元前244年(始皇3年)に亡くなったとされる将軍・王齮と同一人物である」とする説が存在します。この場合、始皇3年(紀元前244年)が没年となります。
同一人物説を採用しない場合、どんな形で生涯を閉じたのかは史料から読み解くことはできないため生没年は不詳です。
史実の最大の謎:「王齕」と「王齮(おうき)」は同一人物?
ここで、『キングダム』ファンを混乱させる歴史上のミステリーが登場します。
実は、歴史書『史記』には「王齕(おうこつ)」のほかに、「王齮(おうき)」という非常によく似た名前の将軍が登場するのです。
漢字一文字違いの謎の武将
- 王齕(おうこつ):昭王の時代から活躍するベテラン名将。
- 王齮(おうき):嬴政の時代に突然現れ、将軍として活躍した人物。
この二人は、活躍した時期が完全に重なっており、さらに「齕(こつ)」と「齮(き)」という漢字の形も酷似しています。
当時の木簡(文字を書く板)の写し間違い(誤記)や、地方による発音の違いなどの理由から、現代の歴史学・中国史研究においては「王齕と王齮は、実は同じ一人の人物を指しているのではないか(同一人物説)」という見方が非常に有力とされています。
なぜ漫画では「王齕」と「王騎」に分かれているのか?改変の理由を考察
もし史実で「王齕=王齮」だったとすれば、なぜ作者の原泰久先生は、漫画『キングダム』の中でこの二人をわざわざ「怪力の王齕」と「怪鳥の王騎」という別々のキャラクターとして描いたのでしょうか?
もちろん作者が明言しているわけではありませんが、作品全体を見ると、その理由はいくつか考えられます。
理由① 歴史の曖昧さを逆手にとった「贅沢なキャラ付け」
『キングダム』最大の魅力は、史実に残っていない部分を大胆なドラマへ昇華している点です。
「王齕と王齮は同一人物かもしれない」という歴史の余白を逆手にとり、
- 過去の伝説として語られる、大斧を振り回す大男の「王齕」
- 現代の秦を支え、信の師匠となる最高にかっこいい「王騎」
という二人のキャラクターが生み出されたのではと考えます。
史実をそのまま再現するのではなく、物語として最も面白くなる形へ再構成した好例と言えるでしょう。
理由②王騎を「信の師匠」にするため
史実の王齕(おうこつ)は病死という静かな最期を迎えますが、もしその通りに描いていれば、物語の序盤で信が劇的な精神的成長を遂げることはなかったでしょう。
原先生はあえて「王齮(おうき)」という別武将をベースにしたオリジナルキャラクターを生み出すことで、単行本16巻(第169話〜171話)の「馬陽の戦い」における、あの伝説的な引き継ぎのドラマを創り出しました。
矢に射抜かれ、龐煖(ほうけん)の矛に胸を貫かれながらも、自らの馬上に信を乗せて脱出する王騎。そこで信に放った「これが、将軍の見る景色です」という言葉、そして愛馬の背の上で「天下の大将軍だ」と言い遺して微笑みながら息を引き取る最期は、史実の制約を完全に飛び越えたからこそ描けた『キングダム』屈指の最高傑作シーンです。
ここで託された「王騎の矛」が、のちに信が朱海平原で龐煖を討つ(48巻〜)伏線へと繋がっていくカタルシスは、まさに原先生が「王齕と王騎を分けた」からこそ実現した神演出だと言えます。
理由③ 「六大将軍」という伝説をより魅力的にするため
『キングダム』では秦の六大将軍は、まるで伝説の英雄のように描かれています。
- 白起
- 摎
- 王騎
- 胡傷
- 司馬錯
- 王齕
それぞれに異なる個性が与えられており、読者に強い印象を残します。
もし王騎と王齕を同一人物にしてしまうと、六大将軍の人数やバランスにも影響が出てしまいます。
あえて二人に分けることで、「六大将軍」というブランドそのものをより魅力的に演出したとも考えられます。
理由④「王一族」の格を落とさないための配慮
史実の王齕は、名将・白起の影に隠れがちだったり、後半の戦いで敗北を経験したりしています。
もし王騎を「王齕そのもの」として描いてしまうと、史実に縛られて「無敗の最強大将軍」という無敵のカリスマ性を描きにくくなってしまいます。
あえて名前を「王騎」というオリジナル(王齮がベース)にすることで、史実の敗戦の記録を避け、誰もが憧れる「秦の怪鳥」としての完璧な強さと散り際を描くことができたと考えられます。
漫画『キングダム』における王齕と王騎の違いまとめ
ここで、漫画における二人の設定の違いを表でわかりやすく整理しておきましょう。
| 項目 | 王齕(おうこつ) | 王騎(おうき) |
| 作中での立場 | 伝説の六大将軍の一人 | 六大将軍の生き残り |
| 戦闘スタイル | 圧倒的な「怪力」で大斧を振り回す | 圧倒的な「武力」と「知略」を兼ね備えた矛使い |
| 主な活躍・最期 | 楚の汗明に一騎打ちで敗れ、引退(のちに病死) | 馬陽の戦いで趙の龐煖、李牧の策に敗れ死亡 |
| 史実でのモデル | 実在の武将「王齕」 | 実在の武将「王齮(おうき)」が有力 |
※史実では同一人物だった可能性がありますが、漫画ではまったく異なる個性を持つ武将として描かれています。
これも『キングダム』ならではの大胆なアレンジと言えるでしょう。
王騎の史実を知ると『キングダム』はもっと面白くなる
王騎は完全な創作キャラクターではありません。
史実に残る王齕や王齮という武将をベースにしながら、
- 白起のような最強の武力
- 王翦のような知略
- 六大将軍という伝説性
など、さまざまな要素を融合させて誕生したキャラクターだと考えられます。
だからこそ、「王騎は史実では実在したの?」という疑問に対する答えは、「実在した武将をモデルにした、漫画オリジナルの人物」という表現が最も適切でしょう。
史実を知ったあとに馬陽編を読み返すと、王騎の一つひとつの言葉や行動に、また違った重みを感じられるはずです。
よくある質問(FAQ)
王騎は実在した人物ですか?
「王騎」という名前の武将は史実には確認されていません。ただし、『史記』に登場する秦の将軍・王齮(おうき)がモデルになったと考えられています。
王騎と王齕は同一人物ですか?
歴史学では、王齕と王齮は同一人物だった可能性が高いという説が有力です。ただし、史料が限られているため断定はされていません。
漫画で王騎と王齕が別人なのはなぜですか?
原泰久先生が物語をより面白くするため、史実の「余白」を活かして別々のキャラクターとして描いたと考えられます。王騎を信の師匠として描くための演出でもあります。
王騎の最後は史実ですか?
馬陽の戦いで龐煖に討たれる展開は漫画オリジナルです。史実にはそのような記録は残っていません。
まとめ 王騎は史実を超えて生まれた『キングダム』最高の名将
王騎について整理すると、次のようになります。
- 王騎という名前の武将は史実には登場しない
- モデルは『史記』に記される王齮が最有力
- 王齕と王齮は同一人物だった可能性が高い
- 原泰久先生は歴史の余白を活かし、王騎と王齕を別々の人物として描いた
- その結果、王騎は『キングダム』を代表する伝説の将軍となった
史実を知ると、「なぜ王騎はこれほど魅力的なキャラクターなのか」がより深く理解できます。
もし『史記』の記述通りにただ歴史をなぞるだけなら、あの魅力的な「王騎将軍」は生まれなかったかもしれません。歴史のちょっとした「謎」や「誤記かもしれない部分」を極上のドラマへと昇華させた原先生のプロの手腕には、本当に脱帽するばかりです。
「王齕と王騎は、もしかしたら同一人物だったのかも……」そんな歴史のロマンに想いを馳せながら、ぜひもう一度『キングダム』を読み返してみてください。王騎将軍の言葉ひとつひとつの重みが、さらに違って聞こえてくるはずです!


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